【山のエピソード】生と死の狭間で

一ノ倉・衝立岩中央稜

今までにたくさんの山を登ってきました。
歩きが主体の縦走登山、渓流を遡って山頂を目指す沢登り、岩登り、雪山登山、などなど。
山をオールラウンドに楽しんできました。

今回は、谷川岳、一ノ倉沢の岩壁で過ごした一夜について書こうと思います。

一ノ倉・衝立岩中央稜

谷川岳・一ノ倉沢には標高差800mの岩壁があり、クライマーの憧れでもあります。
しかし、危険なこの岩壁は数百人以上の登山家の命を飲み込んできました。
あやうく、私もその一人になるところでした。

まだ、星空が見える頃からパートナー二人と出発し、岩壁へと向かいます。
この日に登る岩壁は、一ノ倉の中でも衝立岩中央稜(ついたていわちゅうおうりょう)と呼ばれる岩壁でした。
午後から天気が下り坂になる予報だったので、早い時間に登り切って、天気が崩れる前に下山する予定でした。

一ノ倉・衝立岩中央稜

一ノ倉・衝立岩中央稜

しかし、岩壁は想像以上に手強く、登り切るのに時間がかかってしまいました。
登り切った頃にはもう暗雲が広がり、今にも雨が降り出しそうな感じです。
歩いて下ることができないので、懸垂下降を繰り返して下山をしました。

一ノ倉・衝立岩中央稜

ところが、懸垂下降している間に雨が降ってきてしまいました。
雨はだんだんと強くなり、あたりもどんどん暗くなっていきます。
もう、どこを下ったらよいのか、よく見えなくなってしまいました。

これ以上行動を継続すると、手元や足元を滑らせて墜落するかもしれない。
そう判断した私達は、岩壁の途中で一晩過ごすことに決めました。
まだ、岩壁を下りきるまで100m以上はあったのです。

ハーケンを岩壁に打ち込んで、ロープとハーネスを連結しました。
寝入ってしまったとき、墜落しないためです。

頭からツェルトと呼ばれる簡易型のテントをかぶって、雨から体を守りました。
夜が明けるまでの長い闘いが始まりました。

雨は上がるのだろうか?
落石はないだろうか?
僕たちは生きて帰れるんだろうか?
不安でいっぱいになりました。

当たり前だと思っていた日常にはもう戻れないかもしれない。
そう思ったら、当たり前だと思っていた日常は実はかけがえのないものだったんじゃないか?
楽しいこと、つらいこと、いろいろあるけど。
生きて帰りたい、そう思いました。

夜が更けるにつれて冷え込んできて、耐え難い寒さになりました。
それでも頑張っていると、渇望の朝がやって来ました。

夜が明けると、雨は上がっていました。
ツェルトの外に出てみると、ルートがはっきりと見えました。
この機会を逃してはならない、と、私達は下山を開始しました。

ひとつ間違えば遭難になるところでした。
私達は、無事に下山することができました。

一ノ倉・衝立岩中央稜

失ってから、あるいは、失いそうになってから気づくということはあると思います。
当たり前の日常は、特に大きな問題もなく過ごせた幸せな日々なのかもしれません。

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